「顔のない長身の男性が子どもを連れ去る」――スレンダーマン(Slender Man)は2009年にインターネット上で誕生した創作キャラクターが、実際に人々の行動に影響を与えるほどの力を持った稀有な事例です。
スレンダーマンの誕生(2009年)
スレンダーマンは2009年6月にVictor Surge(Eric Knudsen)がフォトショップで作成した2枚の画像から始まりました。Something Awful掲示板の「超自然的な写真を作ろう」というスレッドへの投稿で、背が高く細長い黒いスーツ姿で顔がない人物が子どもたちの背後に写っているというコンセプトでした。
急速な普及の理由
スレンダーマンが急速に広まった理由は:
- 不鮮明な写真のリアリティ:本物の心霊写真と区別しにくい
- 参加型の神話構築:他のユーザーが独自のストーリー・写真を追加して「伝説」が膨らんだ
- 普遍的な「見知らぬ危険な大人」の恐怖:子どもが持つ原初的な恐怖と一致
創作から「現実」への転化
スレンダーマンが最も危険な局面を迎えたのは2014年のウィスコンシン州の刺傷事件です。12歳の少女2人が同い年の友人をスレンダーマンへの「生け贄」にするために19回刺すという事件が起きました。加害者の少女たちはスレンダーマンを実在の存在として信じていたと証言しています。
スレンダーマンが社会に与えた影響
- 映画・ゲーム化:2018年に映画「Slender Man」公開、「Slender: The Eight Pages」等のゲームが多数制作
- インターネット上の神話(Mythos)の確立:スレンダーマンを含む「The Fear Mythos」というクリエイティブコミュニティが形成
- 創作都市伝説(Creepypasta)ジャンルの確立:インターネット怪談の代表的存在として定着
スレンダーマンが問いかけるもの
スレンダーマンの事例は、インターネット上の創作コンテンツが現実に影響を与える限界点を示しています。特に発達段階にある子ども・ティーンエイジャーが創作と現実の区別をつけられなくなるリスクについて、重要な問いを提示しています。
まとめ
スレンダーマンはインターネットが生み出した最初の「本物の都市伝説」と言えます。起源が明確に創作であるにもかかわらず、実際の信仰と行動変容を引き起こした点で、デジタル時代の民俗学・心理学の重要な研究対象です。