最終更新日: 2026年10月3日|本記事は、公開されている記事・書誌・作品データをもとに都市伝説ラボがまとめた検証記事です。
この記事の答え
- ひきこさんが実在するという証拠はない。最初の書き込みの日付まで分かっている、ネット生まれの創作怪談
- 初出は2001年7月24日、Webサイト「Alpha-web こわい話」への投稿
- 雨の日に子どもの遺体を引きずって現れる、背の高い髪の長い女という話だった
- 2日後の7月26日、元は「森妃姫子(もりひきこ)」という少女だったという過去の話が加わった
ひきこさんとは、雨の日に子どもを引きずって現れる、背の高い髪の長い女の怪異です。白いぼろぼろの着物を着て、目と口が裂けている。いじめを受けて家に閉じこもった少女のなれの果てだ、と語られます。
「本当にいるの?」と調べる人は多いのですが、答えははっきりしています。この話は2001年の夏にインターネットへ書き込まれた創作で、いつ何が書き足されたのかまで、ある程度たどれます。
手がかりは、怪異妖怪愛好家で作家の朝里樹が2021年8月に講談社のWebメディア「マネー現代」で公開した前後編の記事です。都市伝説ラボではこの2本を読み込み、初出から映像化までを時系列に並べ直しました。
ひきこさんは本当にいる?答えは「いない」
ひきこさんが実在することを示す記録や事件は見つかっていません。話の出どころは、投稿日が特定できるネット上の書き込みです。
朝里の記事によると、最初のひきこさんの話は2001年7月24日、Webサイト「Alpha-web こわい話」に書き込まれました。該当部分をそのまま引きます。
2001年7月24日、今から遡ること約20年前、「ひきこさん」と呼ばれる女に纏わる話がWEBサイト「Alpha-web こわい話」に書き込まれた。
(朝里樹「子どもの遺体を引きずって現れ…亡骸をコレクションする怪異「ひきこさん」の正体」マネー現代、2021年)
昔の村に伝わる言い伝えでも、実際の事件の記録でもありません。怪談を投稿するサイトに載った「話」が出発点です。しかも、今のひきこさん像は1人の手で完成したわけではない。2日後に別の投稿が重なり、設定が肉付けされていきました。
なお、ひきこさんは「2ちゃんねるのオカルト板が発祥」と書かれることがあります。けれども朝里の記事が初出として挙げるのは「Alpha-web こわい話」です。都市伝説ラボが確認した資料に、2ちゃんねるを初出とする記述はありませんでした。
2001年7月24日に書き込まれた、はじまりの話

最初の話は、雨の日に小学生が奇妙な女を見てしまうところから始まります。朝里の記事が紹介する筋は、おおむね次のとおりです。
- 午後から雨が降った日、家の遠い少年Aは急いで帰る途中、橋の上から河川敷の石段を見る
- 石段の上を、背の異様に高い女がものすごい速さで動いていた。白いぼろぼろの着物を着て、長い髪が顔にかかり、目と口が横に裂けている
- 女が引きずっていたのは、人形ではなく子どもの遺体だった
- 翌日、また雨が降る。学校で友達3人と遊んでいたAたちの前に、校門から女が迫ってくる
- 4人は散り散りに隠れ、朝を迎える。Aだけが姿を消していた。隠れていた友達は、女がAを引きずって走り去るのを見ていた
この段階のひきこさんは、ほぼ怪物です。朝里は、校舎の天井まで背が届くという描写から身長は少なくとも2メートル以上あり、意味の分からない叫び声を上げるだけで言葉はしゃべらない、と整理しています。
名前の由来について、朝里は「引きずり殺す」という類のない殺し方から来ていると考えられる、と書いています。ひきこさんの「ひきこ」は、もとは「引きずる」の側にあった、という見立てです。
2日後に加わった「森妃姫子」の過去
2001年7月26日、同じ「Alpha-web こわい話」に、ひきこさんが人間だった頃の話が投稿されました。今よく知られる「いじめられた少女」の設定は、ここで生まれています。
朝里の記事によると、その内容はこうです。
- 本名は森妃姫子(もりひきこ)。背が高く、活発でよく笑う子だった
- 先生にえこひいきされ、名前が偉そうだという理由でいじめに遭う
- 両手を縛られ、足を持って学校中を引きずり回され、顔にひどい傷を負う。その日から学校へ行かなくなった
- 何年も部屋に閉じこもるうちに異様な長身に育ち、雨の日にだけ外へ出るようになった
- 傘で周りの視界がふさがる雨の日なら、傷ついた顔を見られずに済むから
- 出くわした小学生を、かつて自分がされたように引きずる
子どもを見つけると「なぜ逃げる、私の顔は醜いか、醜いかぁぁ!」と叫んで追ってくる、とも語られます。自宅には子どもの亡骸がコレクションされていて、コレクションの第一号は両親だった、という残酷な設定まで付いていました。
最初の話に別の書き手が理由を足していく過程は、書籍『洒落怖の解剖学』の第六章で、テケテケとあわせて取り上げています。
最初の話と2日後の話は、何が違うのか
後編の記事で朝里は、2つの投稿を並べて違いを指摘しています。表にまとめると次のとおりです。
| 要素 | 7月24日の最初の話 | 7月26日の森妃姫子の話 |
|---|---|---|
| 正体 | 正体不明の化け物 | 人間の少女・森妃姫子 |
| 裂けた目と口 | 理由の説明なし | いじめの傷と、自分で切りつけた傷 |
| 叫び声 | 意味の分からない叫び | 「私の顔は醜いか」 |
| 雨の日に出る理由 | 説明なし | 傘のおかげで顔を見られないから |
| 子どもを引きずる理由 | 説明なし | かつて自分が引きずられたから |
朝里は、2番目の話は最初の話の要素に「ひとつひとつ理由付けをしていく形で語られている」と書いています。そのうえで、2つの話を投稿したのは別人だと考える、と述べています。前編でも、森妃姫子のエピソードは最初の投稿者とは別人物の手による可能性が高い、としていました。
名前にも仕掛けがあります。朝里によれば「森妃姫子」は「ひきこもり」のアナグラムで、「ひきこさん」という名前から連想して後付けされたのだろう、とのことです。叫び声が「私の顔は醜いか」になった点については、1979年頃に噂になった口裂け女の「わたしきれい?」と対になっている、と指摘しています。口裂け女の噂が広まった経緯は、都市伝説ラボの映画『口裂け女2』は実話?1979年の流行を検証で扱っています。
話はどう「完成」していったのか(時系列)
ひきこさんは、ネットへの書き込み、テレビでの紹介、映像作品という順で広まっていきました。確認できた出来事を年表にします。
| 年月日 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2001年7月24日 | 「Alpha-web こわい話」に最初の話が書き込まれる | 朝里(前編) |
| 2001年7月26日 | 同サイトに森妃姫子の過去の話が書き込まれる | 朝里(前編) |
| 時期不明 | 兄弟がいる、インターホンを鳴らす、などの派生が投稿されるが定着しない | 朝里(後編) |
| 2003年8月5日 | テレビ朝日系『世界痛快伝説!!運命のダダダダーン!Z』の特集で紹介される | 朝里(後編) |
| 2008年11月21日 | DVD『ひきこさん』(ティーエムシー)発売 | goo映画(アーカイブ) |
| 2013年・2014年 | 『ひきこさんの惨劇』『ひ・き・こ 降臨』が公開される | 映画.com |
定着しなかった派生の話
朝里の後編によると、「Alpha-web こわい話」には、ひきこさんに兄弟がいる、口から奇妙な液体を吐く、といった話も投稿されていました。家までやって来てインターホンを鳴らし、「すいません、ひきこさんですけど、殺しに来たんですけどよろしかったでしょうか」と言う話まであったそうです。
ただし朝里は、これらは今では忘れ去られており、「森妃姫子」以外の後付けの話はひきこさんの話として残らなかった、と書いています。残ったのは「ひきこさんは子どもを引きずって殺してしまう女である」と「過去にいじめや虐待を受け、引きこもりの末に怪物と化した少女である」の2点です。
テレビで全国へ、そして映像作品へ
朝里の記事によると、2つの話は初出のあと都市伝説を扱う複数のサイトで取り上げられました。2003年8月5日にはテレビ朝日系の番組『世界痛快伝説!!運命のダダダダーン!Z』の特集「あなたも呪われる!身の毛もよだつ本当に怖い話」で紹介され、ネットの外でも知られるようになります。
映像作品もあります。goo映画のDVDページ(インターネットアーカイブの保存版)によると、DVD『ひきこさん』は2008年製作で、監督は永岡久明。発売日は2008年11月21日、発売元はティーエムシー、収録時間は62分。映画.comには、2013年8月2日公開の『ひきこさんの惨劇』と、2014年11月29日公開の『ひ・き・こ 降臨』の作品ページがあります。
名前の似た作品に、ANECの完全3DCGホラーアニメ『都市伝説物語ひきこ』があります。インターネットアーカイブに残る2007年3月1日時点の公式ページでは「都市伝説物語シリーズ第壱弾」とされていますが、発売年は確認できませんでした。DVD『ひきこさん』とは別の作品です。
なぜ「いじめ」と「引きこもり」の話になったのか
朝里は、森妃姫子の物語には2001年当時の世相が映っている、と見ています。
後編の記事によると、その前年の2000年には、引きこもりが世の中に知られるきっかけになる事件が続きました。1月28日に発覚した新潟少女監禁事件と、5月3日の西鉄バスジャック事件です。どちらも引きこもっていたことが直接の動機ではなかった、と朝里は書きます。それでも報道で犯人が引きこもりだったと大きく扱われ、「引きこもりの人間が犯罪の加害者となる」という偏見を強めた、という指摘です。
森妃姫子の話も、引きこもりが加害者になる形で語られる。しかも本人は、いじめの被害者だった。朝里は、当時注目されていた「引きこもり」「いじめ」といった要素が取り込まれたことで完成度の高い物語が生まれた、と書いています。
被害者が怪物になる型は、ひきこさんが初めてではありません。朝里は例として、鶴屋南北の歌舞伎『東海道四谷怪談』のお岩と、映画『呪怨』シリーズの伽椰子を挙げています。
後編の結びの一文は、ひきこさんという怪異をよく言い表しています。
つまり、ひきこさんは人間から怪物になったのではなく、人間にされてしまった怪物なのではないかと…。
(朝里樹「引きこもりの女性が怪物化…口が裂けている…怪異「ひきこさん」が“完成”した背景」マネー現代、2021年)
先に生まれたのは正体不明の怪物で、人間としての過去は2日後に与えられた。順番が逆なのです。「元はいじめられた少女だった」という悲しい設定こそが、この話を本当らしく感じさせている部分だと言えます。
ひきこさんの弱点・対処法として語られること
森妃姫子の話には、ひきこさんの弱点も書き込まれていました。朝里の前編が紹介するものは次のとおりです。
- かつて自分をいじめていた子どもと同じ名前の子は、怖がって襲わない
- 「私の顔は醜いか」と聞かれて「きれいだ」と答えると気に入られ、「醜い」と言うと怒って引きずろうとする
- 「ひっぱるぞ!」と叫ぶとひるむ
- 自分の顔を嫌っているので、鏡を見せると逃げていく
- 自分と同じようにいじめられている人は襲わないと言われる
朝里はこれらを、人間だった頃の弱さを持っている点がひきこさんの特徴だ、とまとめています。もちろん創作の中の設定なので、現実で試す場面はありません。
ネット発の怪異では、初出の年や場所が分かることがよくあります。2008年に書き込まれたとされる八尺様の経緯は八尺様の都市伝説を検証で、学校で語られる怪談の代表格はトイレの花子さんの起源を検証で取り上げています。
もっと調べたい人のための資料
ひきこさんの経緯を自分で確かめたいなら、朝里の前後編がいちばんの近道です。本記事の初出日・派生・テレビ放送の情報は、この2本によっています。
- 前編:子どもの遺体を引きずって現れ…亡骸をコレクションする怪異「ひきこさん」の正体(マネー現代)
- 後編:引きこもりの女性が怪物化…口が裂けている…怪異「ひきこさん」が“完成”した背景(マネー現代)
朝里には、ネットや学校で語られる現代の怪異を集めた著書『日本現代怪異事典』(笠間書院、2018年)もあります。書誌は国立国会図書館サーチで確認できます。
「Alpha-web こわい話」にあった元の書き込みそのものは、都市伝説ラボでは確認できていません。原文に当たれていない以上、本記事の内容は朝里の記事が伝える範囲にとどめています。
まとめ:ひきこさんは2001年に生まれた創作怪談
ひきこさんは実在しません。2001年7月24日に「Alpha-web こわい話」へ書き込まれた、雨の日に子どもを引きずる女の話が始まりです。
ポイントは3つあります。
- 最初の話のひきこさんは、言葉を話さない正体不明の怪物だった
- 2日後の投稿で「森妃姫子」という人間の過去と、いじめ・引きこもりの設定が加わった
- その後、2003年のテレビ番組、2008年のDVDを経て全国に知られた
「本当にいるのか」という問いの答えは、出どころをたどると見えてきます。都市伝説ラボでは今後も、ネットで生まれた怪異の初出と広まり方を資料から確かめていきます。ほかの話はネット都市伝説の記事一覧からどうぞ。
よくある質問
ひきこさんは本当にいるのですか?
いません。ひきこさんは2001年7月24日に、Webサイト「Alpha-web こわい話」へ書き込まれた創作の怪談です。実在を示す記録や事件は見つかっていません。
ひきこさんの最初の話は、いつどこで書かれましたか?
朝里樹の記事によると、2001年7月24日に「Alpha-web こわい話」へ書き込まれました。雨の日に子どもの遺体を引きずって現れる、背の高い女の話です。
森妃姫子(もりひきこ)とは誰ですか?
ひきこさんの人間だった頃の名前とされる人物です。2001年7月26日の投稿で加わった設定で、いじめを受けて家に閉じこもった少女として語られます。朝里樹は、最初の投稿者とは別の人が書いた可能性が高いと見ています。
ひきこさんは2ちゃんねる発祥ですか?
朝里樹の記事は、初出を「Alpha-web こわい話」としています。都市伝説ラボが確認した資料に、2ちゃんねるを初出とする記述はありませんでした。
ひきこさんの弱点は何ですか?
森妃姫子の話では、鏡を見せると逃げる、「ひっぱるぞ!」と叫ぶとひるむ、いじめっ子と同じ名前の子は襲わない、などとされています。いずれも創作の中の設定です。
免責事項:本記事は都市伝説・怪談を文化として紹介するもので、ひきこさんの実在を主張するものではありません。内容は2026年10月3日時点で確認できた公開情報にもとづきます。※作品の発売日・公開日は各ページの記載によります。誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。個人情報の扱いはプライバシーポリシー、記事の利用条件は免責事項をご覧ください。