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アニメ考察

鬼滅の刃、初期設定の全貌:幻の主人公と知られざる前日譚

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社会現象を巻き起こした漫画『鬼滅の刃』。しかし、連載開始に至るまでには、我々が知る物語とは異なる、いくつかの初期構想が存在した。その原型は作者・吾峠呼世晴氏のデビュー前の読切作品にまで遡り、主人公も「竈門炭治郎」とは似て非なる、よりダークでハードな設定のキャラクターだったことが明らかになった。本レポートでは、幻のプロトタイプ作品を紐解きながら、『鬼滅の刃』がいかにして現在の形へと進化を遂げたのか、その創作の軌跡を追う。

原点にして前日譚『過狩り狩り』

『鬼滅の刃』の直接的なルーツとされるのが、2013年に吾峠氏が「第70回JUMPトレジャー新人漫画賞」で佳作を受賞した読切作品『過狩り狩り』である。この作品には、後の『鬼滅の刃』に繋がる多くの要素が散りばめられていた。

©集英社/吾峠呼世晴
  • 世界観と設定: 鬼が存在し、それを狩る剣士がいるという基本設定は『鬼滅の刃』と共通している。しかし、作風は全体的にダークでシリアス。後の連載で特徴となるコミカルな描写や、キャラクターの成長物語といった少年漫画的要素は薄い。
  • 登場人物: 主人公は、家族を鬼に殺され、自身も片腕を失った寡黙な剣士。その風貌や背景には、後の冨岡義勇や不死川実弥の面影が感じられる。さらに驚くべきは、鬼でありながら人間を助ける珠世と、彼女に付き従う愈史郎が、ほぼ完成された形で登場していることだ。敵役として、洋装の鬼が登場し、これは鬼舞辻無惨の原型と言える。

『過狩り狩り』は、まさに『鬼滅の刃』のプロトタイプであり、作者の初期衝動が色濃く反映された作品であった。

連載に向けた挑戦と挫折:幻のネーム『鬼殺の流』

『過狩り狩り』を元に、週刊少年ジャンプでの連載を目指して描かれたのが、ネーム段階の作品『鬼殺の流』である。この作品は、公式ファンブックにその一部が収録されており、より連載を意識した設定変更が見られる。

  • 主人公「流(ナガレ)」: 主人公は「流(ナガレ)」という名の少年。しかしその設定は、『過狩り狩り』の主人公以上に過酷なものだった。盲目、片腕、そして両脚は義足という、まさに満身創痍のキャラクターとして構想されていた。その容姿は後の冨岡義勇や始まりの呼吸の剣士・縁壱を彷彿とさせる。
  • 深まる世界観: 時代設定は明治時代に。鬼を滅殺するための組織や、「惡鬼滅殺」の文字が刻まれた日輪刀、鬼が嫌う藤の花といった、後の鬼殺隊に繋がる具体的な設定がここで登場した。また、鱗滝左近次の原型となるキャラクターも描かれている。

しかし、この『鬼殺の流』は、編集部での連載会議を通過することができなかった。その主な理由は、「主人公が寡黙で暗すぎる」「世界観がシビアで、読者がついてきにくい」というものだった。あまりにハードな設定が、週刊少年漫画の主人公としては異例と判断されたのだ。

主人公「竈門炭治郎」の誕生秘話:編集者との対話が生んだ化学反応

『鬼殺の流』の挫折を受け、吾峠氏は担当編集者と議論を重ねる。ここで、後の大ヒットを決定づける重要な転換が起きた。当時の担当編集者であった片山氏は、「明るくて、読者が感情移入できる普通のキャラクター」を主人公に据えることを提案した。

当初、吾峠氏は脇役の一人として、「家族を鬼に殺され、たった一人の妹も鬼に変えられてしまった炭売りの少年」を構想していた。このキャラクターこそが「竈門炭治郎」である。編集者からの助言を受け、吾峠氏はこの脇役だった少年を主人公へと抜擢。この決断が、『鬼滅の刃』の運命を大きく変えた。

炭治郎は、特殊な過去を持つものの、その心根は優しく、家族思いの「普通の少年」だ。彼のこの「普通さ」が、読者が過酷な世界観に没入するための重要な入口となった。さらに、炭治郎の特異な資質である「鬼にさえ同情し、その悲しい背景を理解しようとする優しさ」は、単なる勧善懲悪ではない、作品の深いテーマ性を生み出すことに成功した。

結論:なぜ炭治郎でなければならなかったのか

『鬼滅の刃』の初期設定をリサーチすると、作者である吾峠氏が一貫してダークでシリアスな作風を志向していたことがわかる。しかし、その作家性と、週刊少年漫画というメディアの特性との間で、創造的な対話と試行錯誤が行われた。

『過狩り狩り』の隻腕の剣士から、『鬼殺の流』の盲目の剣士「流」へ。そして最終的に、読者の共感を呼ぶ「普通の少年」竈門炭治郎へと主人公を変更したこと。この大胆な方針転換こそが、『鬼滅の刃』が国民的な人気を獲得する最大の要因となったと言えるだろう。

それは、単に読者に迎合した結果ではない。炭治郎の持つ、鬼の悲しみさえも受け止める「器の大きさ」が、結果として作者が当初から描きたかったであろう「理不尽な世界における救いと癒し」というテーマを、より深く、より多くの人々に届けることに繋がったのである。幻の主人公たちの存在は、『鬼滅の刃』という作品が、作者の揺るぎない核と、読者の心を見据えた編集者の視点との奇跡的な融合によって生み出されたことを物語っている。


参考記事

  • note(2021/04/09)- 「鬼滅の刃」の原型となった読み切り「過狩り狩り」の感想と「鬼滅の刃」との違いについて
  • note(2021/10/18)- 【鬼滅の刃の原型】過狩り狩り【ネタバレ考察】
  • CREA(2020/12/04)- 『鬼滅の刃』担当編集者が明かす! 「最初のネームは地味で、今の原型はなかった」
  • https://www.google.com/search?q=247freak.hatenablog.com(2021/02/05)- 鬼滅の刃公式ファンブック第1弾「鬼殺隊見聞録」感想。初期構想や裏話満載のファン必携本!
  • Wikipedia – 鬼滅の刃
  • note(2021/07/20)- なぜ鬼滅の刃の主人公は竈門炭治郎なのか?
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