噂の出所を最後まで辿れることは、めったにありません。しかし『コワイシャシン』というゲームをめぐる話については、それができました。
コワイシャシンとは、2002年7月25日にメディアエンターテイメントから発売されたPlayStation用の除霊アクションゲームです。このソフトには「本物の心霊写真が使われている」「開発現場で死者が出た」という噂が20年以上つきまとってきました。都市伝説ラボでは今回、その一文がどこで生まれ、どう形を変えたのかを2026年8月時点の公開情報をもとに追いかけています。
この記事でわかることは、次の3点です。
- 噂の原文がどこに載っているのか(2008年開設の怪談投稿ページ、全340話のうちの1話)
- 原文と公式記録を突き合わせると、照合できた5点すべてが食い違うこと
- 「〜らしい」だらけの投稿が、どの段階で断定形に変わったのか
本記事のために、噂の引用元とされるページを開いて原文を読み、文字数と語尾を数えました。その集計結果もあわせて載せています。

コワイシャシンとは?2002年発売の「除霊アクションゲーム」
まず、ゲームそのものの記録を押さえます。ジャンル表記は「除霊アクションゲーム」。プレイヤーは霊能者の緋織(ひおり、声・野田順子)を操作し、依頼者から預かった写真越しに霊と戦います。
Wikipediaの項目と当時のソフトウェアカタログの記述を突き合わせて確認したところ、ゲーム構成は次のとおりでした。物語は全7章。1つの章につき写真が基本的に3枚ずつ登場し、1枚の写真には3体前後の霊が潜んでいます。霊のいる場所をカーソルで探し当て、迫ってくる動きに合わせて方向キーとボタンを入力する、反射神経が問われるシステムです。
ここで先に押さえておきたい点がひとつ。Wikipediaのゲーム内容の説明には、画面に表示される写真について「合成によるもの」とはっきり書かれています。「本物を使った」という説明ではありません。噂の側と記録の側で、出発点からずれているわけです。

「本物の心霊写真を使った」という噂はどこから来たのか
次に、噂の側を辿ります。まとめ記事やゲーム系の解説を読み比べると、この話の引用元がほぼ1か所に集約されることに気づきました。永劫怪奇堂という、個人が運営する投稿型のページです。
ここは2008年9月15日に開設された、いわゆる怖い話の置き場でした。掲載は全340話。メニューは「心霊・妖怪/不思議・不気味/人間の怖い話/事件・事故」といった怪談のカテゴリで構成されています。問題の話はNo.161として「不思議・不気味」に分類されており、2010年10月の月間アクセスランキングでは1位に入っていました。
原文は「聞いた話」として書かれている
原文を開くと、書き出しはこうです。
プレステのコワイシャシンってゲームがやばいらしい。開発会社に勤めてた人に聞いたんだけど、何人もけが人、自殺者が出たとか、、聞いたのは俺の高校からの連れで、営業で入社したんだけど、まあ小さい会社だったらしい。
(永劫怪奇堂 No.161「コワイシャシン」より引用)
投稿者本人が体験した話ではありません。高校時代の友人から聞いた、という又聞きの形式で書かれています。開発の中心人物についても「本名まずいんでK川にしとく」と、仮名であることをその場で断っています。文末は「以上稚拙な文でスマソ」。掲示板の書き込みに近い口調です。
本文を数えてみた結果
どの程度まで伝聞の形で書かれているのか、原文の本文を機械的に集計してみました。空白を除いた本文はおよそ5,060字。そこに現れた語尾は次のとおりです。
| 表現 | 出現回数 |
|---|---|
| らしい | 50回 |
| とか | 19回 |
| 聞いた | 11回 |
| みたい | 4回 |
| そうです | 1回 |
| 伝聞を示す表現の合計 | 75回 |
約5,060字に対して「らしい」だけで50回。単純計算すると、およそ100字に1回のペースで「これは自分が見たことではない」と断り続けている計算になります。書いた本人は、一度も事実として提示していません。
断定に変わったのは、その先だった
ところが引用の段階で様子が変わります。この投稿を紹介したまとめ記事には「本物の心霊写真を使用!」という断定形の見出しが立てられました。ニコニコ大百科は「上記はあくまで噂の一部である」と注意書きを添えていますが、この一文まで一緒に引用される例は多くありません。そして現在、動画のまとめ企画では「本物を使用しているというのです」と、ほぼ事実として紹介されています。
噂の記述と公式記録を突き合わせる
ここからが検証です。原文には、確認可能な具体的記述がいくつも含まれていました。それらを公開されている制作記録と照合しました。
| 噂の原文の記述 | 公開記録との照合結果 |
|---|---|
| スタッフロールは「最後に残った数名が乗るのみ」 | スタッフ欄には個人32名の実名と法人3社がクレジットされている |
| 開発の中心は「K川さん」 | 32名の中に該当する姓は0名(小川・早川・平松・金井・松田・青江ほか) |
| 社長の意向で「監修の名前は消した」 | スタッフ欄にそもそも監修という役職の項目が存在しない |
| 「その後会社は倒産したようです」 | 同じ2002年に『コロコロポストニン』『満福!! 鍋家族』を発売している |
| 写っているのは本物を加工したもの | ゲーム内容の説明では「合成によるもの」と記載 |
照合できた5点は、すべて記録と合いませんでした。とりわけ重いのが1行目です。デバッグ担当だけでも5名、撮影協力4名、営業・広報4名が名前を出してクレジットされています。「最後に残った数名」という状況とはかけ離れています。
正直なところ、この照合は特別な資料を必要としません。スタッフ欄を最後まで読んで人数を数えるだけです。それでも、噂が広まってから十数年のあいだ、この突き合わせが行われた形跡は見つかりませんでした。
なぜ伝聞が「事実」に変わったのか
ここは考察になります。噂が形を変えた過程には、3つの段階がありました。
- 投稿:又聞きとして書かれ、100字に1回のペースで「らしい」が付いている
- 引用:まとめ記事が「本物の心霊写真を使用!」という断定の見出しを付ける
- 再引用:見出しだけが流通し、原文の伝聞表現は誰も遡らない
総務省の令和6年版情報通信白書によると、真偽の確認を行った人に確認方法を尋ねた調査では、「情報の発信源(組織や人物)を確認した」割合が最も高く37.6%でした。裏を返せば、発信源まで遡る人は3人に1人ほどということになります。同じ総務省の調査では、見かけた情報について「真偽がわからないと感じた」割合が各項目で概ね6.5割、そのうち「確認しようとした」割合は約3〜4割にとどまっていました。
この構造は、ゲームをめぐる噂の多くに共通します。BEN Drownedをめぐる話も、Misfortune.gbも、出発点は個人の投稿でした。違いは、原文が残っているかどうかだけです。
注意したい点:名前が残っている人たちがいる
この噂には、見過ごせない側面があります。原文は開発関係者の死や自傷を具体的に描写していますが、その舞台となった会社も、そこで働いていた人々も実在します。スタッフ欄に実名を出している32名は、いまも検索すれば読める状態です。
裏付けのない話を「いわく付き」として面白がるとき、名指しされているのは架空の誰かではありません。※本記事が原文の凄惨な描写をそのまま再掲していないのは、この理由によります。本メディアでは、噂の中身そのものより、それがどう組み立てられたかを整理する方針をとっています。
心霊写真は、最初から「作られていた」
ここで視点を変えます。そもそも「本物」という言い方は、この分野で成立するのでしょうか。出発点まで遡ると、答えは思ったより単純でした。
霊が写る写真の起源とされるのは、1860年代のアメリカで活動した写真師ウィリアム・H・マムラーです。自分を撮った1枚に亡くなった従兄弟の姿が写り込んでいた、というのが始まりだと本人は説明していました。南北戦争で家族を失った人が大勢いた時代です。マムラーは彫版工の仕事を辞め、故人の姿を写す商売で生計を立てるようになります。

技法そのものは知られています。1枚のガラス乾板に2度露光すれば、後から重ねた像は半透明の人影として定着します。写っているのは霊ではなく、露光を2回行った結果です。
作品は現存しています。ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館は、マムラーが撮った名刺判写真39枚を1冊のアルバムとして所蔵し、収蔵品として公開しています。作者は1832年生まれ、1884年没。彫版工から写真師になった経歴も記録に残っています。
1869年、この写真師は法廷に立った
マムラーは1869年、ニューヨークで詐欺の疑いをかけられ起訴されます。市長の指示を受けた保安官ジョセフ・H・トゥーカーが身分を伏せて撮影を依頼する、いわゆるおとり捜査がきっかけでした。裁判では興行師のP・T・バーナムがマムラーに不利な証言を行っています。

判決は無罪でした。ただし理由が独特です。マムラーが写真を捏造したことを、検察が疑いの余地なく立証できなかった。だから無罪という結論です。潔白が証明されたわけではありません。この構図は、160年近く経った現在の噂とよく似ています。裏付けがないことと、否定されたことは違う。その隙間に話は残り続けます。
本人はその後この分野から距離を置き、現像の化学的な研究へ移りました。押さえておきたいのは、霊が写る写真というジャンルが最初から加工技術と一体で始まっているという点です。「本物を集めてきて、見えにくいから加工した」という噂の筋書きは、この歴史の上に置くと順序が逆立ちしています。
そもそも心霊写真はなぜ「見えて」しまうのか
もうひとつ、この噂が説得力を持った土台の部分に触れます。長く指摘されてきたのが、パレイドリアという知覚の働きです。
立命館大学の総合心理学部が公開する高橋康介先生の解説によると、パレイドリアとは、そこに存在しないパターンを見出してしまう心理現象を指します。何が見えるかを調べた実験では、動物や空想上の生き物、幾何学模様など多様な回答が集まったものの、8割以上は顔や生きものに関するものだったと紹介されています。同じ解説では、顔でないものが顔に見える例として心霊写真や人面魚が挙げられていました。

興味深いのは、コワイシャシンのゲーム設計がまさにこの働きを利用している点です。プレイヤーは粗い画像のなかからカーソルで霊を探し出します。粒子の粗い写真をじっと見つめて顔を探す行為は、パレイドリアが起きやすい条件そのものです。写真が本物か合成かにかかわらず、画面の前の人間は「見えて」しまいます。噂が根づく素地は、ゲームの仕組みの側にもあったことになります。
よくある質問(FAQ)
コワイシャシンには本物の心霊写真が使われているのですか?
裏付けは確認できていません。ゲーム内容の公開されている説明では、表示される写真は「合成によるもの」と記載されています。「本物を使った」という話の出所は、2008年開設の怪談投稿サイトに載った又聞きの投稿でした。
開発中に自殺者が出たという話は本当ですか?
その記述がある文章は実在しますが、内容を裏付ける記録は見つかっていません。原文には「最後に残った数名しかスタッフロールに乗らなかった」とありますが、記録では個人32名と法人3社が実名でクレジットされており、この点は合致しません。
噂の原文はいま読めますか?
掲載元のページは2026年8月時点で公開が続いています。ただし本文には自傷や死に関する具体的な描写が含まれるため、本記事では引用を冒頭部分にとどめました。
発売元のメディアエンターテイメントは倒産したのですか?
噂ではそう語られますが、確認できていません。同社は同じ2002年に『コロコロポストニン』と『満福!! 鍋家族』を発売しており、コワイシャシン1本で立ち行かなくなったという筋書きとは合いません。
このゲームは今でも遊べますか?
復刻や配信は行われておらず、2026年8月時点では中古のPlayStation用ソフトを探すことになります。
まとめ
ポイントは、この一件が「噂の出所まで完全に辿れる珍しいケース」だったことです。要点を3つに絞って振り返ります。
- 「本物の心霊写真を使った」という話の出所は、2008年開設の怪談投稿サイトに載った全340話中の1話。約5,060字の本文に「らしい」が50回並ぶ、又聞きの文章だった
- 原文の記述と公開記録を照合すると、確認できた5点すべてが食い違った。特にスタッフロールには個人32名と法人3社が実名で載っている
- 総務省の令和6年版情報通信白書では、真偽の確認手段として発信源まで確認した割合は37.6%。原文に遡る人が少ないほど、伝聞は断定に近づく
マリオやポケモンの事例は、ゲームにまつわる噂を検証した記事で扱っています。都市伝説ラボでは引き続き、話の中身と同じくらい、それがどこから来たのかを追いかけていきます。
最終更新: 2026-08-14
※本記事は一般的な情報提供を目的とし、個人の感想を含みます。最新情報は公式をご確認ください。
※実在する企業および個人に関する未確認の記述については、本記事では裏付けの有無を明示し、断定を避けています。
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